ロマンを買ってもロマンにならないレース

神戸新聞杯の日だった。

わたしは意を決して家から、後楽園まで歩いていった。菊花賞のトライアルである神戸新聞杯を後楽園ウインズで見届けるために。

今回の見所はいうまでもなく
「ダービーで活躍した馬vs夏競馬で実績をあげた馬」
であった。

これは換言すれば
「現実をみて馬券を買う行為vs馬券にロマンを賭ける行為」
の対決に他ならない。

ダービー馬ディープスカイの一番人気は妥当なところだが、二番人気オウケンブルースリの倍率が異様だった。
後者こそ「馬券にロマンを賭ける行為」のために出走するようなものであり、まさに夏競馬において実績をあげ、菊花賞を狙いに行く馬であったはず。
しかし、あの倍率では「ロマンを買って勝ったところで、結果はロマンにならない状況」なのだった。

わたしは解った気がした。今日は現実組がロマン組を叩きのめす日なのではないか。
では、なんとしてもディープスカイスマイルジャックブラックシェル、このダービー上位三着にはオウケンブルースリに負けてもらっては困る。

そんな想いで、全く好きではない馬、ディープスカイを中心に馬券を買った。

結果、あのダービーでタニノギムレットの血を引くことの矜持を見せつけたスマイルジャックが唯一、オウケンブルースリに遅れをとったのだった。
わたしはせこい馬券の買い方をして馬連でちょろっと当てたことを恥じた。
わたしがスマイルジャックにもっと愛情をもって接していれば、スマイルジャック単勝勝負をしていればこんな結果にはならなかったのかもしれない、という妄想が頭をもたげてならない。


帰り道、東京ドームでひらかれていたスマップのコンサートの外まで漏れているざわめきがウィンズを後にする競馬狂たちの耳にも届いていた。
漏れ聞こえる曲は、弾丸ファイターであった。
馬、という端からみればあてにならない一介の動物にスマップのチケットよりも高額のお金をつぎ込み、勝てる!と信じている彼らこそがその瞬間、
もっともポジティブな弾丸ファイターであることを確信した。