ミホちゃん、キャラ崩壊中

                      
            まったく知らない人間
            まったく好きになれそうにない彼のために
            ここに椅子を用意する
               (「問題はあとひとつだ」福間健二



なに部やったっけ
テニス部
ああ、てにぶか




大野さん病んでんねんて
なんでなんで
うち、小学校のときちょっと友達やったのに
学校もう来てへんらしいよ
ホムペ見てみ
ああ、あれは病んでんね
最近閉じたらしいわ
ミホちゃん以外の27回生全員死ねって
(え?よりによってミホちゃんなん
なんでなんで
小学校のときめっちゃ明るかったやん
人気者やったで
うち、小学校のときちょっと友達やったのに




なに部やったっけ
テニス部
ああ、てにぶか てにぶか



ボクラハミンナヤンデイル/ヤンデイルカラウタウンダ



なにそれ?




ミホちゃんが歌っとったらしいよ(大声で
え?聴こえへんかった もっぺん歌って いやや 
最近ミホちゃんヘンじゃない? はじけてしまっ
たというか 紅い実が? それは寒いよ! ああ、
ミホちゃん乗り移ってんちゃうん やめろや ああ、
ああ、崩壊中、ミ、ミ、ミホちゃん、キャ、ラ、崩、壊、中・・・




大野さん、ガッコ別に出てこなくてもいいんだよ 「わたしたち待ってます」なんて
死んでもいわないから ミホは舞ってます 毎日毎日舞ってます 手のひら、ひらひ
ら タイヨウにかざして 今日も舞ってます ロンド。




ミホちん、今日は環状線三周しました。新記録です。今宮で降りて天王寺公園ぶらつ
いてたら、まだわかい兄やんが三千円で手で抜いてってぬかすから、わたし思春期で
忙しいんですけどって断った。今日も空はあまりに高くて目眩がします。






あ、ぼくもテニス部だったんですけどね




ボクラハミンナヤンデイル/ヤンデイルカラウタウンダ 
慌ててぼくは黄色い装丁に赤字でタイトルの書かれた
一冊の詩集のことを想いだし、
とりあえず「きみたちは美人だ」とノートに書き付けた




友人のね「手紙」っていうタイトルのブログに
〈言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる〉
って書いてあった




誠実に、がミソなんやろ
いや、並べる、がミソやで




「どんなにしんどくても連絡だけはしいや」
「はい、すんませんでした。ありがとうございます」





〈言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる〉
って書いてあって
ぼくは電車のなかで泣いた




釜ヶ崎三角公園
一ヶ月前
「よってき祭り」
というのやってて
よってったら
「ダンシングよしたかとロックンロールフォーレバーズ」 
っちゅうめっさかっこええバンド
が唄ってた
御座のうえでぼくは
友達と聴き入ってた




ウォーン!
狼は吠え
日雇いのおっちゃんは
あまりにダンサブルで
言葉は、誠実に並べれば、祈りにも似てくる




さよなら、サンカク
またきて、シカク




ウタは、誠実に並べれば、祈りにも似てくる




あ、大野元気?
ミホちんも元気そうでなにより
それだけ
ただ、それだけ




〈♪ジャスティス・アズ・ア・カンヴァセーション






どこやったかなあ、赤土のコート。
ああ、育英高校やわ、イクエ。
あそこで試合待ってる最中、
それも長いねん、待ち時間が。
第一試合が朝あって、
第二試合始まるの昼過ぎやで、
ほんまかなんわ。
んでな、第一試合終わって
日陰でぼおっとしてるやん。
ポカリとか飲みながら。ぼおっと、
あほみたいなつらさらして。
だいたい、高校生くらいの悩みとか
十年たったら、あほみたいな悩みやったなあと思うやろ。




それはな、嘘やで。




「あと十年たったら
なんでも出来そうな気がするって
でも、やっぱりそんなの嘘さ
やっぱり何もできないよ
僕はいつまでも何もできないだろう」
って昔、部室で歌ってた先輩元気かな。




話もとに戻すけどな、その赤土のコート、イクエの。
全然コート整備できてへん。
イレギュラーしまくり。
あっついし、ボールはわけ解らんはねかたするし、
もうイライライライラしっぱなしや。




おーい、聴こえてる?ミホさん。
大野寝るなって、もうちょっとやから、
もうちょっとだけ聴いて。
んでな、その赤土のコートの周りはな
陸上部が使ってんねん。
敷地が狭いからな、
たぶん併用してるんやろな。
野球場は立派やけどなあ。
んでな、その陸上部の走ってる連中のなかに、
めっさ髪さらっさらでな、
風になびかせながらスラーッした足で
ひょいひょいって走ってる
選手がおったのよ。
独りでずーっとコートの周り
走ってんねんけど、
これが、あまりに美しくってな、
おれ自分の試合どうでもようなって
ずーっとその選手を見てた。




いまやあらゆる比喩が陳腐になって
なににも例えられはしないが




二本の足を、誠実に並べれば、祈りにも似てくる




って想いだして
おれは電車のなかで泣いた