サマー・ヴァケイション

今朝がた夏を刻み終えた男の全身を漂白してベランダに干したところだと云う 
熟すことも腐ることもなく ただ 秋がくればカサカサと鳴るだろう 
できることなら、血の匂いのしない図鑑をくれ 魚鱗を貼付けたせいで
この夏を越せないなどというおまえの言い分がいまはつらい 

 
  
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滲む空からは一羽の鳥が降り注ぎ 白い腹をひらひら回転させ軋む 
赤の、嘴だけが波の浅瀬で凍てついたまま刺さっている

 

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熱を帯びた首筋から背中にかけて巨大な鴉に包容される夢をみた 
薄く明るい光で照らされた巨大な鴉の羽毛でわたしの夏の休息は完全に露になってしまった 
机のうえには銀や銅でできたコインが数枚転がっており 孔のあいたものを選んでは 
その先にこの夏、自然発火した女が見えないかと繰り返す

   

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ガラス瓶を灰皿の代わりにしているおまえは昨日、誤って底にペンを突き刺してしまったことを酷く後悔しているね 突き立てるものが小指でも短刀でもペニスでも、その後悔の質量に変わりはなかったと云ってさめざめと泣いている

 

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短い独白の後に、それらがすべて誤りだったとせびる役者の背中には夏の、割と明るい夜の星空が似合う わたしにはこの夏を越す理由のひとつだと思えたが変わらずおまえは男の全身を漂白することに魂を賭けていたのだった 

  

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橋の両端で突っ立ているわたしたち 夏の夕暮れ 
河原でひとり祖先をおくっている男から焦点の深い写真をもらった