峰という煙草がいつのまにか無くなっていたから。

私は煙草を吸わないので、真冬の屋外の空気に触れたとたん、その冷たさを煙と共にからだにしまいこんでしまおうという欲動を理解できない。


私は煙草を吸わないので、見知らぬ土地の見知らぬ公園のベンチに無目的に存することが、火のついた煙草をくわえることで免罪されることなど理解できない。


私は煙草を吸わないので、埃まみれの少年たちが屑鉄を乗せた三輪のうえで、一本の煙草をまわし吸いしているさまに感じる親しみを理解できない。


私は煙草を吸わないので、城跡を取り囲む森たちが、一本の吸殻によって燃し尽くされ、街を呑み込む契機を失ったのだ、などと世迷い言を云う少年は存在しない。


私は煙草を吸わないので、煙草を吸う私は存在した例がない。