出立


届かない
まだ手を延ばして 
相違えた指を配る
ぼくたちは林道を象って
淵辺へと たくさんの
息吹を摘んだね
その穢れをまとっても
もう慌てないで 
みじかく、身近に
護っているから 
きみも知っている 
隣町の水夫が
護っているから
穏やかに綴るおれの 
薄い紙にいつのひか
穏やかに刻んでくれ

この七日のあいだに朽ち果てた
獣の数をかぞえたら視力が衰えた 
隣人たちは枝葉をあつめ火を焚き 
朽ちた屍が燻され 絡まった蒸気が 
濁ったからだを覆った 

翔んださきから 
不浄の深沼に 
足をすくわれ 
転ばない方法を 
蝶々は捨てた 
翌日にはこどもたちが 
羽化をはじめ 
繰り返される 
転倒に
あたらしい希みの 
絶たれた
しかしぼくたちには 
脱ぎ捨てられた 
体皮がある

象られた獣たちの足跡 のあまりの小ささ
に手を合わせ かつて踏み固められた刹那 
に 残っていた湿り を想ってきみは 思わず
くしゃみをした      

轟々と
うなっている 
ひと滴
余さずに食んで 
かじかむ 
まだ手を延ばして 
ぼくたちは
触っているね 
摘み穫った
息吹の欠片で
書きつけているから 
たとえば業など
もはや聴こえなかった
どうか荒らさないで 
きみが贈ってくれた
涼しく貧しい 
琥珀いろの数珠
をたずさえ
わたしたちは、きょう 
出立します