出立
届かない
まだ手を延ばして
相違えた指を配る
ぼくたちは林道を象って
淵辺へと たくさんの
息吹を摘んだね
その穢れをまとっても
もう慌てないで
みじかく、身近に
護っているから
きみも知っている
隣町の水夫が
護っているから
穏やかに綴るおれの
薄い紙にいつのひか
穏やかに刻んでくれ
*
この七日のあいだに朽ち果てた
獣の数をかぞえたら視力が衰えた
隣人たちは枝葉をあつめ火を焚き
朽ちた屍が燻され 絡まった蒸気が
濁ったからだを覆った
*
翔んださきから
不浄の深沼に
足をすくわれ
転ばない方法を
蝶々は捨てた
翌日にはこどもたちが
羽化をはじめ
繰り返される
転倒に
あたらしい希みの
絶たれた
しかしぼくたちには
脱ぎ捨てられた
体皮がある
*
象られた獣たちの足跡 のあまりの小ささ
に手を合わせ かつて踏み固められた刹那
に 残っていた湿り を想ってきみは 思わず
くしゃみをした
*
轟々と
うなっている
ひと滴
余さずに食んで
かじかむ
まだ手を延ばして
ぼくたちは
触っているね
摘み穫った
息吹の欠片で
書きつけているから
たとえば業など
もはや聴こえなかった
どうか荒らさないで
きみが贈ってくれた
涼しく貧しい
琥珀いろの数珠
をたずさえ
わたしたちは、きょう
出立します