七月のこと

隣室で眠る友人の寝息と、近くの高速道を走る車両の音がこんな夜更け、他人の家にて混じりあう。
私は妙に目が冴えてしまい、携帯のディスプレイの灯りを頼りにこんな散文を綴ったりしている。

友人の出してくれたポテチなどを齧りながら、ぼおっとあすの新馬戦のことなどに想いを馳せる。
救急車が近くを通り過ぎ、あ、ドップラー効果、などと意味もなく独りごちる。
煙草に火を付けると、額に汗が滲む。

あれもまた、これくらい蒸す七月の始めのことだったろうか。
同じように特にあてもなく、別の他人の家で過ごした日々が思い浮かばれ、何故だか懐かしくなる。
昼っまからすることもなく私は友人宅で、ごろごろしていた。
友人は永遠に終わりそうにもないプロ野球のゲームに勤しみ、その傍で、
私はかれの書いていた小説を読んだりネットサーフィンをしたり、これまただらりだらりと時を過ごした。
かれの野球ゲームの行く末にいちいち言葉をかけたり、急に小説の感想を述べたりして
かれもかれでゲームに熱中しながら無駄に律儀に応答していた。

七月の同じように蒸した部屋では、そのベランダにおそらくは
引っ越しのときに用したであろう白い発泡スチロールが捨ててあった。
私が懐かしく想いまた、ほとんど愛しいとも云えるのはその、白い物体が、風に浮かされひらひらと舞っているさまだ。
何故、そんなものに執着を示すのか我ながらよくは解らないのだが、あの白さがひらひらと舞う光景を想い出しては、
友人とその数日間交わしたやりとりがすべて蘇ってくるような気がするのだ。

いま、別の他人の家にて、ベランダには割れた鏡台が置きっ放しにされ、開け放された窓から夜気が忍び込んでくる。
数年後の七月、私はまたもや他人の家にいて所在なくこの光景に想いを馳せるのか。